最後の手段
「デビューを約束しよう」 プロデューサーにそう言われて、私は天にものぼる気持ちだった。 男女6人でバンドを組んでからちょうど5年。私達の努力がやっと報われたのだ。 この話を聞いたら他のみんなはどんなに喜ぶだろう。 ギターのさとし、ベースのシンちゃんが「さっそく曲作りだぜ!」とはりきる姿が目に浮かぶ。 女ながらパワーあふれるドラムを叩いてきた、い~ちゃんはもしかしたら泣き出すんじゃないかな。 ダンスパフォーマーの美華とみどりは、それこそ歓喜の舞を踊り続けることだろう。 私がニヤニヤしていると、プロデューサーが続けて言った。 「ただし、デビューできるのは君だけだ。我が社では女性ボーカルはソロで売り出す方針だからね」 「キミちゃん。どうだった?」練習スタジオのドアを開けると、待ちかねた様子のみどりが飛んできた。 他のみんなも練習の手を止め、一斉に期待に満ちた目で私の顔を見る。 「ええと……、あの、あのね……」 うまく切り出せないでいる私の言葉をシンちゃんがさえぎった。「分かったよ。皆まで言うな。……ダメだったんだろう?」 「え~、ガッカリ!」とたんに美華が落胆の声をあげる。 「今度こそイケると思ってたのにぃ」い~ちゃんは今にも泣き出しそうだ。 「でも、あの……」 「いやいいんだ。また今度がんばればいいんだから。さあ、気合いを入れて練習だ!」 さとしのこの一言で、スタジオは再び大音響に包まれた。 結局、みんなには本当のことは言えなかった。 言えるわけがない。全員ダメだったのならまだしも、私ひとりだけがデビューするだなんて。ああ、どうしたら……。 こうなったら最後の手段しかない。私は悩み抜いた挙げ句、意を決してプロデューサーの部屋のドアを叩いた。 「こんな時間に、どうしたんだい?」 部屋に上がり込んだ私は、6人でのデビューを精一杯懇願した。プロデューサーは私の一言一言を頷きながら聞いていたが、最後に発した言葉は非情なものだった。 「何と言われようとダメだ」 私はへたへたとその場に倒れ込んだ。 「可哀想だとは思うが、会社の方針だから仕方がないんだよ」 私はしばらくの間うなだれていたが、おもむろに立ち上がるとブラウスのボタンに手をかけた。 「何をするんだ。そんなことをしたって無駄だ!」驚くプロデューサーが止めるのも聞かず、服を脱ぎ続けた私はとうとう全裸になった。 「どうです? これでも無理ですか?」 「……」 * * 数か月後、男女3人ずつのバンド『Say-10-Count』はめでたく初登場第1位に輝いた。