親子受験
「健二くんと会うのはおやめなさい。そうしないと、大学に入れなくなってしまうわよ」 冷たい目でそう言うママに向かって、私は猛然と反発した。 「イヤ! 健二と一緒にいても合格できるもん!」 「まぁ、なんてことを言うの、この子は! そんなこと絶対に無理です!! 今まであなたが何をしようと寛容に許してきたつもりです。でも大学だけはちゃんとしたところを卒業してちょうだい! 私は何でも協力するから」 「ママの協力なんていらない!」 それからもママは口うるさく反対したが、私は健二に会うことをやめなかった。 だが、大学を諦めたわけではない。私は人一倍努力した。健二と2人でいる時も、参考書を決して手離さなかった。 ママは絶対に間違ってる! 受験に合格して、そのことを証明するのだ。 そして受験の日。 家を出る私に、ママは冷たい口調で言い放った。「どうせダメに決まってるわよ。もし受かったら、あんたと健二くんのことでも何でも認めてあげるわ」 私はママを睨みつけて言った。「きっと受かってみせる! もしも受からなかったら、健二と会えなくなっても構わない!!」 試験の出来は上々だった。私は、持てる力をすべて出し切ったと言っていいだろう。 合格発表の日。私は祈るような気持ちで、番号が羅列された掲示板の前に立った。 「……ない!」 どこを探しても私の受験番号はなかった。私は不合格だったのだ。 ママの鼻をあかすことができなかった! それからどこをどう歩いたのかは覚えていない。私の頭の中には、ママの「それ見たことか!」という嘲りの表情だけがぐるぐると回っていた。 気がつくと、私は健二と2人でビルの屋上に立っていた。健二の胸に頬を寄せた私は、涙声で言った。 「ごめんなさい……。ママとの約束で、もうあなたに会えなくなっちゃったの……」 健二は何も答えることなく、大粒の涙を流して号泣していた。自分の無力さを嘆いているのかもしれない。 私たちはきつく抱き合いながら、ただただ泣き続けた。 涙が枯れ果てた時、私は決意していた。 「あなたと離ればなれになるなんて、私にはできない! それならいっそのこと……。……ねぇ、いいでしょう?」 健二は肯定も否定もしなかった。言葉を交わさなくても私には分かった。健二が私と同じ気持ちでいてくれているということを。 私たちはそっとキスをした。 そして、抱き合ったままビルの屋上から空への一歩を踏み出した……。 * * その日の夜。外回りから帰った営業マンが同僚に聞いた。 「今日、このビルで心中があったって本当か?」 「ああ、屋上から飛び降りたんだ。大騒ぎだったぜ」 「で、どうなったんだ? 15階の高さじゃやっぱり即死か」 「いや、幸いなことに、10階の窓から出ていた窓拭き用のロープが体に絡まってね……」 「おお、助かったのか」 「いや、そのロープも古い代物でね。とても引き上げたり救助員が助けに行ったりできるような状態じゃなかったんだ。そう、1人分の重さに耐えるのがやっとという感じで……」 「じゃあ、じきにロープが切れて2人ともやはり?」 「いや、そうじゃない」 「ま、まさか……、助かったのは片方だけだったのか……!?」 「いや、慎重にゆっくりと引き上げることでなんとか2人とも救助できたよ。片方は小柄な女の子だったし、もう片方はもっと小さい赤ん坊だったからな。女の子の母親がすぐに駆けつけてきたんだけどさ。彼女たち、赤ん坊と3人で抱き合って泣きながら口々に同じことを言ってたってさ」 「何て?」 「『ごめんね、ごめんね、ママが悪かったのよ……』って」