『 私の彼氏 』(横書)(文字大:L4L3L2LMSS2S3)(目次)(SS トップ

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私の彼氏

 私の彼氏は、とにかく物が捨てられない。  だから下手にごみ捨ても頼めない。  一人でごみ捨て場に行かせると、いつの間にか抱えきれないほどの品物を手にして帰宅してくるのだ。まだ使えそうな家具、興味のある本、直せば使えそうな電化製品を見ただけで、持ち帰らなければ悪いような気になってしまうらしい。 「板ならなんにでも使える」「箱は収納に使える」とのことで、同棲中の家は大量の板や空箱で溢れている。  これではスペースがいくらあっても足りやしない。なんとかしないと、今に取り返しのつかないことになる。そう考えた私は、彼氏を必死に説得した。  彼は素直にうなずいた。「分かったよ」  いいや、分かっていないのだ。今私に言われたからそう答えただけで、今度ティッシュを使い切ったら空き箱を小物入れに加工して部屋の片隅に積み上げてしまうのだ。ミネラルウォーターの2Lのペットボトルが2本空いたら、乾かしてカッターで切って小物入れの本体と蓋を作ってしまうのだ。どちらも何も入れないくせに。  空っぽのものを大切にするなんてバカみたい!  今回の私は諦めなかった。あらん限りの弁舌を尽くして、彼の考え方を根本的に正すのだ。 「このまま続けたらどうなるかを想像してみて」「物より快適な環境が大事」「SDGs!」私は意識改革の必要性を三日三晩、切々と説いた。  その末、とうとう私は報われた。 「じゃあ、必要ないものは捨てていいんだね」彼の目の輝きは、明らかに今までと違っていた。彼はやっと目覚めたのだ。  私はうれしくなって彼に言った。「そうよ、あなたは今日から生まれ変わった。これからの生活で使うものだけ残して、あとはどんどん捨てていいのよ。さぁ!」  彼は目をキラキラと輝かせながら、笑顔で駆け寄って来た。 「着ない服、使わない鍋、ブランド物の紙袋、そしてお前~~~~~!!」  その瞬間から、『私の彼』はただの『彼』になった。  7年間彼に大切にされてきた私は、こうして引っ越すことになったのです。

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あとがき

 『僕の彼女』は男女差別だというご意見があったので、逆バージョンも書いてみました。「僕」を「私」に、「彼女」を「彼氏」に一括置換してから書き始めたので十数分で完成しました。ごみ捨て場から物を持ち帰るのは違法です。

 持続可能な生活目標を意識したおかげで、作者は今はかなり「捨てる男」に変貌しました。空箱は全捨て。紙袋は紙ゴミを捨てる際に、不要な布類は切って掃除に使うなどしてどんどんスペースを空けています。「このままつづけていたらいずれ破綻すること」は破綻前になんとかしなければいけないのだということをようやく学びました。

(2021/3/3)

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