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《読みかた》


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プロの助言者

 私の職業はアドバイザー。依頼者から望みを聞き、それをかなえるための的確な助言をするのが仕事だ。  その日、私の事務所にやってきたのはメディア報道で見知った顔の男だった。男は私に、懇願するように言った。 「多くの国民の理解を得て結婚したいのです。どうしたらいいでしょう」  彼は、我が国の姫の婚約内定者。しかし、多額の借金を踏み倒していることが報道され、国民から大バッシングを受けていたのだ。  私は目を閉じ、数十秒の熟考を行うと口を開いた。私が彼にした助言は次の7つだ。 「まずは婚約解消です。一般人扱いになれば過度なバッシング報道はなくなります。プライベートも保たれ、問題解決にじっくり注力できます。姫との愛が不変ならば、姫には裏で『あくまでも解消のフリ』だと伝えておけばいいでしょう」 「学費の援助をしてくれた男性にはお金を返却し、多大な感謝の意を伝えてください。男性も縁談を壊してしまったという負い目ができるため、交渉もよりスムーズに進むでしょう」 「感謝の言葉は『学費を援助していただいたおかげで勉学に励むことができました。遅くなりましたが、私もお金を稼げる身分になりましたのでお返しします』等がいいでしょう。まだ就職していないなら結婚は時期尚早です。まず就職しましょう」 「他のトラブルもすべて解決しましょう。説明できるものはすべて説明を。過度な誹謗中傷に対しては訴訟で対抗しましょう。もう一般人なので、明らかな嘘の記事は取り下げられるでしょう。自らに非がある事柄ついては誠心誠意の謝罪を。自らが預かり知らない親族の疑惑等については、自分の責任下にはない問題であることを表明しましょう」 「トラブルがすべて解決できたなら、再度婚約を発表しても大きな異論は出ないでしょう。その際には母君との関係に線を引きましょう。母君を一切王室に関わらせないこと、王室からの資金援助を一切受けないことを確約しましょう」 「一方で『母は私にとって世界でただ一人だけの大切な存在です。それは今後も一切変わりません』と、母君への愛情も訴えましょう」 「金目当てとの疑惑を払拭するために、自らの収入を大まかに開示した上で、その身の丈にあった生活を送ることを宣言しましょう。それでも何しろ王族と結婚するのですから、金銭的な恩恵は終生十分に得られることでしょう」 「これらが結婚を実現するための私の助言です。いかがでしょう?」  神妙な顔で助言をきいていた男は「進むべき道が分かりました。本当にありがとうございます」と繰り返し頭を下げながら事務所を後にした。  しかし、いくら待っても私の助言は何一つ実行されることはなかった。国民の大バッシングの嵐が吹き荒れる中、男と姫の婚約は正式に決定した。      *   *  その日、私の事務所を訪れたのは姫だった。 「とにかく早く彼と結婚して平凡であたたかい家庭を築きたいんです。どうしたらいいでしょう」  私は姫に、以下の助言をした。 「王族としての地位はどうでもいいのですね。ならば先例はありませんが、結婚前に自主的に王室を離脱するのがいいでしょう」 「その際には『国民への感謝』『王室への敬意』を多大に込めつつ『ひとりの人間として人生を自由に選択したい』旨を文書等で発表しましょう」 「離脱前には民間の借金トラブルへの介入はしてはいけません。王族は全国民に対し平等な存在でなければいけないからです」 「1億5千万の結婚一時金は受取を辞退しましょう。今までの公務で得たお金も、当面の生活費を除いて全額寄付しましょう」 「結婚後の周辺警備等も拒否し、夫婦の収入だけで生活しましょう」 「これだけやれば難癖をつける国民のほうが少数で、より迅速に結婚でき、周囲から冷ややかに見られることもなく暮らせるでしょう。いかがですか?」  しかし、私の助言は何一つ実行されることはなく、姫の結婚式の日取りは決定した。    *   *  次にやってきたのは王だった。 「姫の結婚をやめさせたいのだ。どうしたらいいだろう?」  私は王に、以下の助言をした。 「まず、ひとりの父親として、定収入のない借金まみれの男との結婚は断固として反対しましょう。『それでも結婚したいならすべてを捨てて城から出ていけ』と言うのです」 「王様ご自身が望んで今の地位にいるわけではないことは理解しています。王族として立場を全うしつつも、ひとりの人間としての幸せも自由に追求してほしい。だからこそ娘が望む結婚にはっきりと反対しなかったのでしょうが、それがそもそもの間違いです」 「愛する娘との関係の断絶を恐れておられるのかもしれませんが、娘を愛しているならばこそ、幸せを願っているならばこそ、毅然とした行動をとらねばなりません」 「王として、王族の姫の父として『国民の血税が一国民の借金返済等に使われないこと』を高らかに宣言しましょう。王族がマフィアに資金援助をするなど言語道断でしょう。それと同じで一国民を不当に優遇してはなりません」 「結婚一時金等の制度は、内閣とともに改革しましょう。王室費は王室活動に適切に使用され、不当な人物に流れることを防ぐしくみを構築するのです」 「『断固反対。金も地位も捨ててゼロから自分たちだけで生活するならやってみろ』と言えば、金目当ての男ならば逃げ出し、破談となります。いかがでしょう?」  例によって、私の助言は何一つ実行されることはなく、未曾有のデモ隊が沿道を埋め尽くす中、姫の結婚式は盛大に執り行われた。姫の夫となった男はこれからは王族たちとともに暮らすのだ。    *   *  式の翌日。すべてのやりとりを傍らで記録し続けてきた助手がやりきれない顔で言った。「なんだか日々の仕事が虚しくなってきました。そもそも彼らはなぜ相談にやってきたんでしょう?」  私は助手の肩を叩いて言った。「真剣に解決の糸口を探そうとして足を運んだのだろう。だが、そもそも彼らは人の意見をきけない人たちなのだよ。自己中心的で我儘なんだ。自分の判断こそが絶対的に正しく、他の人間は自分より劣ると思っているのかもしれない。どんなに有効な助言をきいても、頭の中に湧き出てくる『自分だけに都合の良い考え方』のほうが優れていると純粋に思い込んでいるんだろうね。『意に沿わない助言はすべて攻撃』と感じるのかもしれない。凝り固まった考えだけで行動するから事態が悪い方へと進み続けるんだ。最近はほとんどの顧客がそういうタイプの人だよ」 「それでは先生のせっかくのアドバイスが無駄ではありませんか。私たちの仕事は無意味なのですか?」 「我々の仕事は助言をすることだけ。実行するかどうかはあくまでも顧客の判断だよ」 「先生はそれでいいんですか?」 「よくはないさ。だが……私はとにかく愚直に心からの真っ当な助言をするだけだよ。それで報われることもあるからね」 「先生はなんてできた方だ! 僕だったら、自分の意見を完全に無視されたなら、腸が煮えくり返ってたまらないだろうに……」  助手が顔を真っ赤にして身をよじっているうちに、今日の最初の顧客がやってきた。  それは工場の経営者だった。 「工場の排水が川を汚染していることが内部調査で発覚したんです。どう対処したらいいでしょう?」  私はいつものように渾身の力で助言を行った。 「大切なのは汚染の被害をこれ以上広げないことです。ただちに問題を公表しましょう。このままでは命にもかかわる重大な健康被害が出ます。工場が閉鎖となれば会社も倒産するでしょうが、人の命には代えられません。川下から海までは広大な森ですが、その川岸には王族たちだけが使用する城があるではないですか。王たちの身が危険です! 早く公表を。このままそしらぬ顔で操業を続けるなんて、そんなことは間違ってもしてはいけませんよ!!

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あとがき

 あくまでも完全なフィクション、外国の話です。他意はまったくありません。

 中盤までの助言部分がやたらと長いですが、数多くの助言をことごとく無視されるということを表したかったので省略せず、あえて長いままにしました。

 なんとなく、ダチョウ倶楽部を思い出しました。

(2021/5/27)

「別国の姫を美人局として雇ったら報酬が高額すぎて王室費が底をついた」とか、「幾千ものアドバイスをして外堀からどんどん埋めていって目的の行動に誘導した(他人のアドバイスをまったく聞かない人々なので)」といった展開も考えたのですが、結局この形に落ち着きました。

 オチは沖縄の米軍基地から流出する化学物質で川が汚染されている問題をテレビ番組(次頁以降にリンクあり)で見たことから浮かびました。米軍はただちに問題解決に動かなければいけません。こちらは冗談抜きで。

(2021/5/27追記1)

「家から出ていけ」を「城から出ていけ」に、「王族たちだけが使用する邸宅」を「王族たちだけが使用する城」に変更しました。

(2021/5/27追記2)

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