未練ニアム
「元旦に籍を入れたの。ミレニアム・ウェディングよ」 新年の同期会で久々に再会した彼女にそう言われてから数日。僕は夜になるとベランダでただただ星を眺めている。 もう、とうの昔にふっきれたつもりだったのに。 何年も前に愛した女性。 確かに、彼女に別れを告げられたときはショックだった。 だが、今の僕には心から愛しあうことのできる別の女性がいる。元彼女がどんな男と結婚しようが、僕には関係ない。 そのはずだったのだが……。 「だって『始まり』ってカンジがしていいじゃない?」 「なぜ元旦に結婚したのか」という僕の問いに、彼女は屈託のない笑顔でそう答えた。 「ってカンジ」が昔からの彼女の口癖だった。ノリだけで生きている女。本来なら僕が最も嫌うべき人種だ。 だが若かった僕は、どんなぬくもりにでも頬を寄せる仔猫のように、フラフラと彼女に引き寄せられていった。そして、今でもその手の中から逃れられずにいるらしい。 「それに、2000年1月1日って区切りがいいし、覚えやすいってカンジしない? エンギもいいし」 僕の胸はズキンと傷んだ。 かつて、僕も彼女にプロポーズしたことがあったのだ。僕の懸命なプロポーズに対し、彼女は素っ気なくこう答えた。 「う~ん、今日って9月9日じゃない? プロポーズをOKする日としてはエンギ悪いってカンジ。せめて10月1日だったらよかったのに」 星が瞬くのと同時に、僕の頬をあたたかいものが伝り落ちた。 悲しかった。何年経っても変わることのない彼女の性格が。 無性に悔しかった。そんな彼女が幸せな結婚をしたということが。 「うう……。うッ………………うおおおおォ!!」 僕が言葉にならない鬱屈とした思いを心の中で絶叫した時、ちょうど漆黒の空をひとつの流れ星が横切った。 その流れ星はなかなか消えなかった。 それどころか、たちまち大きくなると僕の家の庭へと降り立った。 * * 2000年1月22日。 地球人と異星人のコンタクトが始まった記念すべき日である。 地球は宇宙連邦に参加。僕は初めて宇宙人と接触した地球人として、宇宙省の重要なポストに就くこととなった。 初の記者会見。僕は大勢の記者達の前で、マイクに向かうと口を開いた。 「宇宙連邦の規律に従い、これからは地球の暦も宇宙歴で統一することにします。西暦での今年の元旦は、宇宙歴だと19万9999年19月99日にあたります。もうすぐ十万年紀の『終わり』ってワケです。あははははははははははははははははは」 僕の笑い声は、衛星中継で全世界へと響き渡った。