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恋のターボエンジン
運転中に別れ話なんてするもんじゃない。
「どうしてもやり直せないのか」
「無理ね。別れましょう」
私がそう告げた途端、彼はアクセルに全体重を載せた。
「な、何するの! 危ないじゃないの!」
だが、彼は返事をしない。スピードはどんどん加速していく。
「やめて! 何でもするから」
「じゃあ、考え直してくれるのか」彼はスピードを緩めた。
「……それは、できないわ」
彼はまたすぐに急加速する。
「や、やめて~!」
「おれに触るな! ちょっとでもハンドルを切れば、すぐ壁に激突するぞ!」
「私にどうしろっていうの!?」
「別れるなんて言わないでくれ」
「……だって、原因は全部あなたにあるのよ。毎日暴力を振るう、稼いだお金は全部ギャンブルにつぎ込む、浮気はやめない……。職場恋愛でつきあい始めてから3年、どれだけ私が苦労したか分かってるの? 誰が聞いても悪いのはあんたよ。ううう……」
私の頬を涙が伝う。彼は神妙な表情をしていたが、すぐにポツリと言った。「じゃあ聞いてみようか?」
次の瞬間、
「彼は正しい!」
「悪いのは貴方だ!」
「別れるな!」
「浮気なんか許せ」
「ギャンブル最高!」
「暴力バンザイ!!」
そう口々に叫びながら飛びかかってくる数十人の人々に、私はたちまち取り押さえられた。
私の頭をワシづかみにした一人が、目を血走らせた怒りの表情で言った。
「いいから早く『別れない』と言うんです……さあ、バスガイドさん!」
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1分で読めるショートショート「恋のターボエンジン」 https://www.tbook.net/ss/ki/te/
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あとがき
同じような目にあったことのある女性は意外と多いようで、男達の苦労の程が伺えます。女性なら「死んでやる」とひとこと言えばたいていの男はうろたえるので楽なもんですが。
あ、……くれぐれも真似しないで下さいね。責任持てません。実行しちゃいそうな人は感想を添えてメール下さい。もっといい方法をお教えします。
(1999/8/28)
当時、運転中に別れ話をした人の体験談をきいたことで思いついた話です。当時のあとがきに「もっといい方法を教える」とありますが、それが何なのか今となってはまるで覚えていません。覚えていれば僕自身の人生の大惨事が防げたかもしれないと思うと、取り返しのつかない忘却をしてしまったのかもしれません。
(2020/6)
作品履歴
- 初出:「ショートショート・メールマガジン」第31号(1999年7月29日号)
- 2020/6/4:新サイトに移転。縦書きに対応。あとがきを追加
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