恋の証明写真
幸せの絶頂にいたわたしは、その封筒を開けたとたん絶望の淵に立たされた。 郵便受けに入っていたその封筒の中から出てきたのは、つき合い始めたばかりの彼の写真だった。彼はひとりじゃなかった。なにこれ。信じられない。写真の中の彼の唇は見知らぬ女の唇と重なっていたのだ。 わたしの頭は一瞬で噴火寸前の沸騰状態。確かに彼はプレイボーイとして有名だった。この町で彼とつき合ったことのない人はいないんじゃないかとウワサされるほど色々なコに手を出していたのも知っている。 でも、わたしとつき合ってからはそんなこと一切ないと思ってたのに……。 ようし。そっちがその気なら! わたしは同級生のヨウくんに電話した。ヨウくんは学生時代からわたしに好意を持っていたからだ。 * * 次の日。わたしは後悔していた。 浮気をやりかえしたってちっともすっきりなんかしやしない。やはり彼にひとこと文句を言ってやらなければ。 ちょうど会おうと電話があったので、私は喫茶店で彼を待った。彼が来たらこの写真をつき出してやろう。彼はきっと「何かの間違いだ」としらばっくれるに違いない。でもちゃんと写真があるんだもの。グウの音も出ないようにとっちめてやる! ほどなく彼が息を切らせて店に入って来た。待ってましたとばかりに写真をさし出そうとしたわたしの目の前に、彼の右手が先に突き出された。 「どういうつもりなんだ!」 その手には、わたしとヨウくんがキスをしている写真が握られていた。 「さっき郵便受けに入ってたんだ。説明してもらおうか」 わたしはうろたえた。まさか昨日のことが隠し撮りされていたなんて! 「な、何かの間違いよ」 「何言ってやがる。こうしてちゃんと写真があるんだぞ!」 「じゃあ、これは何だって言うの! こっちにだって写真があるんだから」 「うっ」 「わたしの浮気の原因はあんたにあるのよ。もうあんたなんか信用できないわ!」 このひとことがわたしを優位な立場にした。彼はたちまち弁解を始めた。 「悪かった……。でも、一番好きなのはキミなんだ」 「おきまりの台詞ね。そんなの信用できるわけないじゃない!」 「頼む。信じてくれ」 「じゃあ、それを証明してよ。できる?」 「ああ。できるとも」 彼はわたしの目をまっすぐ見つめると、自信満々に言った。 「その写真を見てすぐにここへ飛んできたのが何よりの証明だ。カレのところじゃない。キミのところへだぞ!!」 わたしは絶望の淵から転落した。 この町で彼とつき合ったことのない人はいない……。 町のウワサは真実だったのだ。