恋の人乳育ち
一発合格でT大に入学したものの、おれはまったくモテなかった。 特別顔が悪いわけでもないのになぜなんだろう? 周りの男達を研究した結果、おれはモテる奴とモテない奴の間に、ある決定的な違いがあることに気がついたのだった。 それはオッパイだ! モテる男たちにアンケートをとったところ、そのほとんどがオッパイを吸っていたのだ。 変な勘違いをしてはいけない。モテる奴らは赤ちゃんの頃、人乳、つまり母乳で育っていた……ということだ。どうやら母乳の中には、人に恋心を抱かせるエキスが含まれているらしい。それにもかかわらず、おれは粉ミルク育ち。これではモテないのも当然である。 実家に電話したおれは、お袋に文句を言った。「母さん! オッパイ吸わせてくれよぉ!」 「は? 何言うとると。出るわけないだろう。バカだねぇこの子は」 「……『何で赤ん坊の頃吸わせてくれなかったんだ』っていう意味だよ……」 とは言うものの、母乳を吸えばモテるようになることは確かだ。しかし、この年になってどうやって吸えと言うのだろう。 街で赤ちゃんに授乳している若奥さんを見ると、つい「あの、ボクにもちょっと吸わせてもらえませんか?」と声をかけてしまう。だが、「いいわよ。さあ、どうぞ」という人にはついぞお目にかからない。皆、気味の悪いものを見たという顔で去って行くだけである。 考えた挙げ句、おれはベビーシッターのバイトを始めた。最初のお母さんが母乳を冷凍しておく習慣がある人だったのはラッキーだった。しかし、早速溶かしてこっそり飲もうとしたところを、ちょうどその家の旦那に目撃されたのは不運だったと言えよう。旦那のパンチに必要以上の力が込められていたように感じたのは気のせいか。 「ああ、オッパイ……オッパイ……」 おれが夢遊病患者のような足取りで街を歩いていると、同級生のケンが声をかけてきた。 「おい、喜べ! お前のことを好きだって言うコがいるぞ。しかも二人もだ!」 見ると、ケンの後ろには二人の女の子が立っていた。 ひとりはアイドルのような美少女リョウコ。もうひとりは少なからず年上で、お世辞にも美人とは言えないヒサモトという女性だった。 「ふたりともお前とつき合いたいって言ってる。さあ、どっちを選ぶ?」 そんなこと聞くまでもないじゃないか! おれはすぐさま前に歩み出ると、彼女の手を握った。 「わたしでいいの?」彼女、ヒサモトは驚きと喜びが混ざり合った表情をおれに向けた。 リョウコは唖然として立ちつくしていたが、おれは見向きもしなかった。乳の出ないオッパイなんて誰がいるものか! その点ヒサモトは違う。ヒサモトはバツイチの子持ちであり、ちょうど授乳期の子供を抱いていたのだ。 それから数か月後。大量の人乳を摂取することに成功したおれは、モテモテ男に変身していた。文字通り、搾るだけ搾り取ったヒサモトなんか、もうポイだ。これからは、どんな美人ともつきあい放題なのだ! ……そう思っていたのだが、なぜかおれはまだヒサモトと別れられずにいた。人乳の効能をポツリとヒサモトに漏らしてしまったのがまずかったのかもしれない。最近のおれは、ヒサモトを見ると妙にドキドキしてしょうがないのだ。 ヒサモトが首を前に折り曲げて、チュウチュウと音をたてているのを目撃したことがある。おそらく、おれたちはこのまま結婚することになるのだろう。 「幸せってこういう風にやってくるものだったんだなぁ」そう呟くと、おれはヒサモトの胸に頭から飛び込んでいった。