「恋のジョージおじさん」別オチプロット 「歌い踊る」編
(前略) ●前半部の変更:デートの場所をレストランではなく高級カジノ(ジョージ)と競馬場(トム)にする。チマチマと賭けては負け続けるトム。大勝負をしては勝ち続けるジョージ。 目覚めた時、ベッドサイドにはジョージとトムがいた。 「ここは……?」 「気がついたんだね。良かった」 「ジョージ……おじさん!」 綾子はたまらず、おじさんの胸に飛び込んだ。待ち望んでいたぬくもりを感じながら、綾子は泣き続けた。おじさんはやさしく綾子の頭をなでる。 「トムが……、トムがあたしのことを……」 「……許してくれとは言わない。どんな償いでもするよ」 「おじさんがそんなことを言う必要はないわ。償いをするべきなのはあなたの方よ!」トムをきっと睨み付ける綾子。オロオロとうろたえるトム。 「(再びジョージに向き直って)うふふ……。おじさんはやっぱりトムとは違ってやさしいのね。……今はっきりと分かったわ。わたしにはやっぱりあなたしかいない。ジョージおじさん、お願い。わたしと結婚して!」 「……それはできない」 「どうして?」 「それは……私がジョージではないからだよ」そう言うと、男は綾子に鏡を手渡した。 それを覗き込んだ綾子はショックのあまり失神しそうになった。そこには40代の自分の顔があったのだ。 「驚くのも無理はない。君は20年の間、意識を失っていたんだ。……私はトムだよ。ここにいるのは私の息子だ」 「そんな……! じゃ、ジョージは? ジョージおじさんはどこ?」 「ここにおるよ……」ヨボヨボのじいさんが返事をする。数人の看護婦や医者に混ざってずっと側にいたのだが、存在感はなく、気づかなかったのだ。 それが66才になったジョージだった。中途半端に禿げ上がった頭。すっかり腰も曲がり痩せこけたその姿からは、かつての広い肩幅、厚い胸板を想像することすらできない。 「20年たった今、君の気持ちを再度確認したい。おれとオヤジとどちらを取るんだ?」 ジョージとトムを見比べて複雑な表情をする綾子。ジョージが手にしている『老人用紙オムツ』を見るまでもなく、ほどなくして綾子はトムの胸に飛び込む。 「やっぱりあなたが好き!」二人は固く抱き合う。ハッピーエンド……と思いきや、トムは喜ぶべき状況にニコリともしない。 代わりに側にいた息子が躍り上がる。「ヤッホッホゥ! おれの勝ちだ!」 「???」唖然としている綾子に向かって息子は言う。 「おれたちはお前のことで言い争った挙げ句、お前の真の気持ちがどちらにあるかを賭けたのさ。20年後なんて全部ウソ。おれはトム、そこにいるのはうちの爺さんさ」 「じゃぁ……」綾子は抱き合っている相手から飛び退く。 「そう。私がジョージだ。お前の気持ちがいかにいい加減かがよく分かったよ……」ジョージは肩を落としてそのまま部屋から出ていく。 「やったぁ! 賭事ではじめてオヤジに勝った! やった! やった!」トムも歌い踊りながらその後に続く。 病室には綾子と、オムツ姿の爺さんだけが残る。