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拾った携帯
バス停で携帯電話を拾った。
交番に届けようと思ってはいたのだが、ついなんとなく家まで持って帰ってきてしまった。
まぁ、持ち主が気づけば電話をかけてくるだろうし、そうしたら届けに行くなり、取りに来てもらうなりすればいいだろう。
そんなことを考えていると、さっそく着信音が鳴った。
「はい、もしもし」
「あの、この間のことなんだけど……」
女の声だ。どうやら持ち主ではないらしい。「いや、僕は……」
「いいの。何も言わないで。……私が悪かったの。ごめんなさい。なんでもするわ。許してくれる?」
「いや、だから僕は……」状況を説明したいのだが、うまく言葉が出ない。
「許してくれるの? くれないの!?」
女の迫力に押されて、私はついポロリと言ってしまった。「ゆ、許すよ」
「ありがとう!! 約束よ! もうどうしようかと思ってたの。じゃあ、またね!」
女の晴れやかな声を残して電話は切れた。
「やれやれ。なんだろう? 喧嘩かな?」
電話はまだまだかかってきた。
「何も言わずにおれを許してくれ」
「悪かったです。許して下さい……」
「ユルシテ~!」
面倒だったので、おれは全員に「許す」と答えて電話を切った。
何だ? この携帯の持ち主は一体、よってたかってどんなひどい仕打ちをされたんだろう?
持ち主からの連絡はなにもないまま、数日が過ぎたある日のこと。
運の悪いことに、おれはバスの中で財布をすられてしまった。
人のものを盗るなんて! おれは激高した。
気のせいか、最近町が物騒になっている気がする。こういう犯罪者どもには、罪の意識はないのだろうか?
おれが怒りに体を震わせていると、拾った携帯のベルが鳴った。
「またやってしまったんです。つい出来心で……。お許し下さいますよね?」
「許す許す」
おれはいつものようになげやりに言うと電話を切った。
今は何もかもが鬱陶しかった。着信ベルの『賛美歌』さえも……。
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あとがき
最近自転車を盗まれました。犯人はすみやかにもとの場所に返すように! ただ懺悔して許しを請うよりも、償うことの方が遙かに大事だと思います。
携帯の持ち主の○○さんが誰か分からない人は、十字を切って考えましょう。
○○さんは、自分の番号を覚えておらず、仕事熱心だったので、携帯の番号を教えあうような「友達」もいなかったんでしょうね……。
(1999/7/19)
以前に描いた漫画の一部を挿絵風に掲載しました。
(2006/1)
新しい機器を扱った小説を書けば、今までにないものになるだろうという目論見で発想した作品。その後、携帯電話やスマホをテーマにした作品はだいぶ世間に溢れましたね。
スマホもそろそろ古臭い機器の仲間入りになりそうな昨今。次に流行する端末は非接触型立体映像投影機器(顔の前や周囲に映像を投影してジェスチャー操作)でしょうか。はたまた脳内埋込み型(脳に直接情報を送信してあらゆる五感を伝達。脳波で自在に操作)でしょうか。
主人公の電話での一人称を「私」から「僕」に変更しました。
(2021/6/1)
作品履歴
- 初出:「ショートショート・メールマガジン」第27号(1999年6月27日号)
- 1999/7/19:ウェブ公開
- 2021/6/1:新サイトに移転。縦書きに対応。修正。あとがきを追加
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