ハゲタカの恐怖
アメリカ旅行の最中、平原を車で走っていると突然強盗に襲われた。 洗いざらいの金品を奪われたおれは、側にあった大きな岩の上に置き去りにされてしまった。 仰向けで大の字の状態。手足はロープで固定され、一切身動きができない。 仕方なく空を眺めていると、雲ひとつない青空に何か黒い物体が舞っているのが見えた。 「……ハ、ハゲタカだ!」 数羽のハゲタカたちは、だんだんこちらに近づいてきたかと思うと、突然おれ目がけて急降下して来た。 「や、やられる……!!」思わず目をつぶったおれをあざ笑うかのように、ハゲタカは途中でUターンすると、上空へと舞い戻った。 そういえば聞いたことがある。ハゲタカは生きた人間は食わないんだっけ。あいつらは上空でおれが死ぬのを待ち構えているのだ。 「助かった……」おれはホッと胸をなで下ろした。 幸いここはハイウェイの近く。数時間のうちには、通りかかった誰かに助けてもらえることだろう。 悪いことは続く。日本の山道を歩いていると、またもや強盗に襲われた。 洗いざらいの金品を奪われたおれは、側にあった大きな木の幹に縛りつけられてしまった。 仕方なくボーっと夕闇を眺めていると、何か黒い物体が近づいてくる気配がする。 「……ク、クマだ!」 一頭の巨大なクマはノッソリと近づいてきたかと思うと、静かにおれの顔をのぞき込んだ。 「や、やられる……!!」思わず目をつぶったおれは、必死に頭を回転させた。 何とか助かる方法は……。そうだ、聞いたことがある。クマは死んだ人間は食わないんだっけ。死んだふりをすれば助かる! 演技などしたことのないおれだが、文字通り必死にやればなんとかなるだろう。 おれはガックリと頭をうなだれると、懸命に死んだふりを始めた。 我ながらうまくできたようだ。間近で続いたクマの荒々しい呼吸音はほどなく消え、遠ざかる足音と入れ替わるように周囲には静寂が訪れた。クマはどこかへ行ってしまったのだ。 「助かった……」おれはホッと胸をなで下ろすと、目を開いた。 照りつける太陽。目に飛び込んできた青空が眩しい。 「???」 おれは瞬時にすべてを理解した。どうやら、いつの間にか眠り込んでしまっていたらしい。夢の中でおれは必死に死んだふりをしていたのだ。 おれの首から下は、すでにハゲタカの昼食となっていた。