超極秘任務
「いつまでもこうしていたい」 「わたしも……」 おれたちは長い口づけを交わした。愛し合っているのだから当たり前だ。 だが、当たり前でない状況がここにはあった。 「ハッ」 人の気配を感じたおれたちは、瞬時に空高く飛び上がると、木の上に身を隠した。 やって来たのは下忍の伝令だった。首領のお呼びだ。 おれと彼女──お龍(おりょう)は忍者なのだ。忍び同士の恋は厳禁。だからといって里を抜けたりしたら命はない。このまま隠れて会うしか選ぶ道はないのである。 おれたちは任務を受けるため、別々に首領の館へと向かった。 * * 「途中まで一緒に行こう」 それぞれ任務を受けたおれたちは、忍びの里を一緒に出発した。 おれは興奮していた。今までにない超重要任務だ。なんとしてもやりとげなければいけない。 かたや、お龍はずっと口をつぐんだままだった。緊張しているのだろう。お龍もかなり重要な任務を受けたとみえる。任務は自分以外の人間に漏らしてはいけない掟なので、尋ねるわけにはいかないが。 「うまくいくか心配してるのか? 安心しろ! お前の腕だったら大丈夫だ」 「うん……」 おれが励ましても、お龍は心ここにあらずといった状態だ。おれは心配になった。この様子で、お龍は無事に任務を遂行できるのだろうか。 その時、おれたちの目の前に突然、敵方の忍者が現れた。 ジャキーン! 上段から振り下ろされた剣先を、おれは慌てず自分の刀で受け止める。感触からして、実力はさほどでもなさそうだ。数は二人。おれはそのうちの一人を軽く斬り捨てた。 「お龍! 弱い相手だからって油断するなよ!」 振り返ると、丁度一つの首が宙に舞ったのが見えた。お龍だった。 * * どれだけ泣いたか分からない。 たった今作ったばかりのお龍の墓の前で、おれは後悔と悲しみを相手に格闘を続けていた。 お龍をこんな形で失うなんて……! なぜ早く加勢してやらなかったんだろう!! しかし、お龍がやられるほどの相手ではなかったはずだが……。敵は二人とも、まるで歯ごたえがなかったのだ。 任務の中で死を迎えるならまだしも、雑魚を相手にこんな無意味な死に方をするとは! お龍……。さぞかし無念だったろう……!! おれは涙を拭うと立ち上がった。お龍のためにも、おれだけでも任務を果たさなければ。 決意を胸に、おれはお龍の墓を後にした。 * * おれの任務は無事に成功した。 敵国の重要人物の暗殺。その大仕事を終えたにも関わらず、おれの胸には喪失感しかなかった。 おれはその隙間を少しでも埋めようと、里に戻る途中でまじない師の洞窟に立ち寄った。 「せめてもの供養に、お龍がやるはずだった任務を全うさせてやりたい」 お龍の任務はおそらく、おれの任務に匹敵するほどの重要なものだったのだろう。それだけに、やり残したまま死んだのではあまりにも無念……おれはそう考えたのだ。 「このまま里に帰っても、首領はお龍の任務が何だったのか教えてくれはしないだろう。お婆。何かいい方法はないだろうか」 まじない師のお婆はゆっくりと頷くと、壺に入った丸薬を取り出して言った。 「これを飲めば、お前の体が代わりにお龍の任務を遂行することじゃろう」 「ありがたい!」おれは即座に丸薬を飲み干した。たちまち全身の自由がきかなくなる。 (さぁ、お龍! 心おきなく任務を果たしてくれ!) おれの体はしばらくの間、静かに立ちつくしたままだったが、やがて、機械的な声が自然と口からこぼれた。 「お命頂戴……!!」 言い終わらないうちに、おれの右腕は腰の太刀を引き抜き、自らの喉元へと勢いよく突き立てていた。 絶命の瞬間、おれはすべてを理解した。お龍の死に意味はあったのだ。他ならぬおれが、それを無意味なものにしてしまうとは……。 お龍が受けた指令。それは『超極秘任務を終えた者の抹殺』だったのだ。