僕の彼女
僕の彼女は、とにかく流されやすい。 だから下手にデパートにも行けない。 一人で歩かせると、いつの間にか抱えきれないほどの品物を手にしているのだ。店員に商品を勧められただけで、買わなければ悪いような気になってしまうらしい。 訪問販売のセールスマンを追い返すことなんて絶対にできないし、新興宗教の勧誘に引っかかっては高額のお布施を払って帰ってくる始末。 これでは金がいくらあっても足りやしない。なんとかしないと、今に取り返しのつかないことになる。そう考えた僕は、彼女を必死に説得した。 彼女は素直にうなずいた。「分かったわ」 いいや、分かっていないのだ。今僕に言われたからそう答えただけで、やはり新聞の勧誘が来ると新聞を取ってしまうのだ。おかげでうちはトイレットペーパーを切らしたことがない。 今回の僕はそこで諦めなかった。あらん限りの弁舌を尽くして、彼女の考え方を根本的に正すのだ。 「もっと自分の考え方を持て」「主体性が大事だよ」「己の足で歩こうぜ」僕は意識改革の必要性を三日三晩、切々と説いた。 その末、とうとう僕は報われた。 「じゃあ、必要ないと思ったものは断ってもいいのね」彼女の目の輝きは、明らかに今までと違っていた。彼女はやっと目覚めたのだ。 僕はうれしくなって彼女に言った。「そうだよ、君は今日から生まれ変わった。イヤなことはどんどん口に出して言っていいんだ。さぁ!」 彼女は目をキラキラと輝かせながら、笑顔で駆け寄って来た。 「あなたあなたあなたあなたあなた~~~~~!!」 その瞬間から、『僕の彼女』はただの『彼女』になった。 僕が彼女に告白してから七年目の冬の出来事だった。