欲深い女王
あるところに欲張りな女王がいた。 女王は金に物を言わせて、あらゆる物を手に入れた。城下街を馬車で走っていて気に入った服や宝石を見つけたら、もう我慢ができない。家来に器いっぱいの金貨を持たせ、何でもすぐに交換させた。どんぶり勘定で大金が手に入るので国民も大喜び。国庫が潤っている国だったのだ。 しかし、そんな女王にも簡単には手に入らない物があった。 それは「若さ」だった。美容手術を施していたため「お若いわ〜」「45歳にはとても見えない」と周囲は褒め讃えていたが、女王本人だけはまるで満足していなかった。 「あぁ、日に日に老いていく我が身が恨めしい。この悩みを解決できるものはおらぬか。金ならいくらでも払うぞよ」 そこに魔法使いと名乗る男が現れた。男は懐から茶色の瓶を出すと、女王に差し出した。「女王様、これは若返りの秘薬です」 「おお、すばらしい! ……だが安全な薬なんだろうね?」 女王は薬瓶の中から錠剤を1錠だけ取り出すと、側にいた番犬に飲ませた。 すると、突然発生した白煙とともに、犬はたちまちくたびれた老犬になってしまった。 「なんじゃこれは! こんなものをワラワに飲ませようとしたのか!!」 「まぁまぁ、説明を聞いてください。これは年齢を四捨五入する薬でございます。その犬は何歳でした?」 「5歳です」飼育係が答えた。 「では、その犬は今10歳になったのです。1錠飲めば年齢の一の位が四捨五入されるのです」 試しに4歳の番犬に薬を飲ませてみると、犬は白煙とともに赤ちゃん犬へと変身した。 「おおお! すばらしい効き目じゃ。ええと、ワラワが飲むとすると、今45歳だから……ご、50歳になってしまうではないか! この阿呆! なんで薬をもっと早く持ってこないのじゃ!!」 「ご安心を。大丈夫です。10錠飲めば年齢の十の位が四捨五入されるのです」 「おお、それを早く言わんか! ええと、ワラワが飲むとすると4が切り捨てられるから……5歳になれるのか。もう一度、人生をやり直せるではないか! なんとすばらしい!! 買った! 代金として桶いっぱいの金貨を持っていくがよい!!」 女王は瓶から無造作に10数錠を取り出した。 「お待ちください! きちんと数えて、飲むのは10錠ちょうどにして下さい!」 「少しくらいよいではないか。ケチくさいのう」 「薬が惜しくて言っているのではありません! 11錠飲んだ場合に、体が『10+1』と認識したならいいでしょう。5歳からさらに10歳になり、十代のいい時期をすぐに謳歌できるのですから。でも、もし体が『1+10』と認識してしまったら……あっ、ダメですったら女王様……!!」 「え? あむあむ……」 時すでに遅し。薬を飲み込んだ女王からは白煙が舞い上がった。 * * 数年後、女王の訃報が国中に流れた。 女王は大量の錠剤を飲もうとしては失敗をくり返し、ついにある日、錠剤を喉につまらせて窒息してしまったのだという。 「ここ数年お姿を見なかったが……おいたわしや」 「なんでも、100錠を一度に飲もうとしていたらしい。なぜそんな無茶なことを……?」 国民は頭をひねるばかりだった。