ウサギとマメ
むかしむかし、あるところにマメの大好きなウサギがいました。 その日もいつものようにマメをボリボリと食べていると、ウサギはうっかりマメの入ったつぼをひっくり返してしまいました。 マメはコロコロと転がっていきます。 「待てぇ」 ウサギはあわててマメを追いかけました。足の速いウサギはすぐに追いついて、マメを拾い上げました。 「まったく世話の焼けるマメだ。いひひひひ。さあ、すぐに食ってやるぞ!」 ウサギがにっこり微笑むと、手の中から声がします。 「助けて下さい。僕たちは食べられたくはないのです」 「驚いた! マメが口をききやがるとは。だが、そんなことを言っても無駄だ。お前たちは俺様よりも下等な存在なのだ。下等なものは高等なものに食われる運命にあるのだ」 「……本当にそうでしょうか。試してみないとわからないのでは?」 「試すだと?」 「私たちとかけっこで競争しましょう。私たちが負けたら、一族全員が喜んであなたに食べられることにします。そのかわり、私たち一族の誰か一人でもあなたに勝つことができたら……」 「ふふふ。いくら数が多いからといって、この俺様にかなうとでも思っているのか。面白い……。受けてたとう! 勝てば、本当にこの世のマメすべてが俺様のものになるんだな」ウサギはおもわずよだれをだらだらと垂らしました。 「マメはウソはつきません」 ウサギとマメ達は、家を出るとスタートラインに着きました。 「いいですか。ゴールはこの先の丘です。丘の頂上の土を先に踏んだ者が勝利者です」 「随分と距離が長いんだな。だが、俺様には屁でもない。いいだろう」 こうして、ウサギとマメたちとの競争はスタートしました。 しかし、ウサギとマメでは最初から勝負になるわけがありません。 スタート直後の下り坂ではマメたちは勢いよく転がることでウサギと互角の勝負を演じたのですが、下り坂が終わり平地に入るとマメたちはたちまち失速し、ウサギとの距離はどんどん開いていきました。 「ムハハハ、楽勝じゃないか。しかし、さすがにこれだけ長く走ったらちょっと疲れてきたな。このあたりでひと休みしていこうか」 それでもマメたちが追いついてくる気配はありません。ひと眠りして元気になったウサギは簡単に丘の頂上のゴールにたどりつきました。 「やった! これでマメは俺様のもの! ウワハハハハハ!!」 静かな丘の上に、笑い声だけが響きます。あまりの辺りの静けさに、ウサギはハタと気づきました。 「まさか、マメめ、おれをだましてあのまま逃げたんじゃ……」 その時、ウサギの足下で声がしました。「……マメはウソはつきません」 「ど、どこにいる?」 「ここです。生まれたばかりですが、私もれっきとしたマメ一族です。勝負は我々の勝ちです」 「むきぃ~~~!!」 ウサギはくやしくて地団駄を踏みましたが、足の裏のマメがちくちくと痛むだけでしたとさ。