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プロの殺し屋
あるところにプロの殺し屋がいた。
彼は自分の仕事に誇りを持っていた。
ある人間が幸せになるためには、死ぬべき人間も存在する。彼はその信念のもと、どんな依頼でも引き受けた。標的によって仕事を選ぶようなまねはしなかった。
命は誰も平等。それが彼のプロとしてのポリシーだった。
彼の心には迷いは何一つなかった。あるのはプロとしての誇りと冷静さだけだった。
ある日、彼のもとに送られてきた依頼状には、彼の妻の名前が書かれていた。
彼の素性は誰も知らないので、依頼人に他意はない。だが、さすがに彼はこの偶然を呪った。心から妻を愛していたのだ。
断ろうかとも考えた。依頼人を捜し出して逆に殺すこともできる。だが、それは今まで貫いてきたポリシーに反する行為だった。
請負金もすでに口座に振り込まれている。やらないわけにはいかない。
決して曲がることのない信念は、彼の人差し指をほんの少しだけ曲げた。
引き金は引かれた。
それから数か月後、彼のもとに送られてきた依頼状には、彼の愛娘の名前が書かれていた。
妻を失って以来、唯一の心の支えだった娘である。殺すなんてとてもできない。
だが、プロとしての誇りを捨てる方が彼には耐えられなかった。
彼は親としての感情の方を捨てることにした。
涙に濡れる手は、的確に娘の首を絞めあげた。
「ハァー」
話を聞きながら、僕はため息をついた。世の中には色々な人がいるものだ。
「すごいプロ根性ですね。殺し屋はその後も、相変わらず冷酷に稼ぎ続けたんですか?」
「いや。間もなく彼は、首吊り死体となって発見された」
「ハハァ……。妻と娘を殺したという罪の意識に耐えられなくなったか、一人では孤独で生きていけなくなったか……」
「いやいや、そんな理由じゃない」
「え?」
「届いた依頼状に、今度は彼の名前が書いてあったのさ」
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あとがき
プロ意識を持つのは大切なことですが、それに縛られてしまってはいけませんね。それ以前に人を殺してはいけません。
(1999/6/14)
世の中、融通をきかせることが大事で、頑なに信念を貫き通してもろくなことがなという話。もちろんその逆で「信念を曲げてばかりいるとろくなことがない」という話も多いと思います。そもそも「信念を持たずに生きていている人はつまらない」という考えもあるでしょうし、さらにつきつめると「信念など何もなくても生きていて美味しいご飯が食べられれば幸せ」という考えにたどりついたりもします。結局、「他者の命を大切にしてただただ生きる」という信念が一番なのかもしれません。
(2021/3/9)
作品履歴
- 初出:「ショートショート・メールマガジン」第23号(1999年5月26日号)
- 1999/6/14:ウェブ公開
- 2021/3/9:新サイトに移転。縦書きに対応。修正。あとがきを追加
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