『 恋のイルカレター 』(→横書き)(文字大:L4L3L2LMSS2S3)(→戻る)(→SS トップ

《読みかた》


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恋のイルカレター

 恋をしたからって、別に何かがはじまるわけじゃない。  だって、恥ずかしがりやの私には、告日する勇気がないんだもん。 「あたしが代わりに伝えてあげようか?」  だめ。好きな人が誰か知られるなんて恥ずかしい! 「だったら、手紙はどう? きっとうまくいくよ」  だめ! うまくいかなかったらどうするの? 彼のところに失敗の証拠が残っちゃう。 「じゃあ、イルカしかないわね」  だめぇ~~~~!! ……って、え……? それどういうこと? 「近所の水族館に親切なイルカがいるのよ。そのイルカの前でこっそりと好きな人のことを言えば、思いを伝えてくれるってうわさなの」  からかわないで! 「知らない? イルカって人間並にかしこいのよ。人間の言葉も理解するし、超能力を持ってるとまで言われてるんだから」  確かにかしこいとは聞くけれど、そんな話とても信じられない……と言いつつ、今、私は水漕の前に立っている。恥ずかしくて彼としゃべることすらできない私には、こんなことをするのが精一杯なの。  辺りに人影がないことを確かめると、私はちょうど目の前にいた小柄なイルカに話しかけた。 「イルカさん聞いて。私が好きなのは3組のタカシくんなの。この思いをどうか彼に伝えて!」  次の瞬間、私の頭の中で声が聞こえた。「分かった。伝えてあげるよ!」 「……何? 誰なの!?」 「ボクだよ。目の前のイルカだよ。タカシくんって、この人だろう?」  その言葉に続いて、私の頭の中に広がったのはタカシくんの笑顔だった。 「な、何これ……」 「君の脳にテレパシーで直接イメージを送ったんだ。どうしてタカシくんの顔を知ってるかって? ボクは人間にはない特殊能力を持っているのさ。分からないことはないよ!」 「でもあなた、水槽の中から出られないじゃない。どうやって伝えてくれるの? タカシくんの家までそのテレパシーは届くの?」 「残念ながら近くの人にしか届かないんだ。でもちゃんと方法があるから大丈夫。安心して任せて!」  次の日、私が学校へ行くと、校門にタカシくんの姿があった。  いつものようにドキドキしながら私が横を通り抜けようとすると、タカシくんがすれ違いざまにそっと囁いた。「ちょっと待って! あの……、……OKだよ……」  どんな方法かは知らないが、イルカが約束通り、私の思いを伝えてくれていたのだ。  それから、私の新しい日々がはじまった。モノトーンで覆われていた学校生活は、たちまち鮮やかな色で染められた。彼がいるってことが、こんなに素敵なことだったなんて!  学校を卒業してからも、楽しい日々は続いた。彼と過ごした誕生日。二人だけの海。クリスマス……。かけがえのない思い出が胸に刻まれた。私は思った。こんなに幸せでいいのかな。  だが数年後、破局は突然訪れた。タカシが浮気をしていたのだ。それも一回や二回ではない。ずっと他に女がいたのだ。問いつめるとタカシは「お前とは最初から遊びだった」とまで言い放った。  誠実で真面目な人だと思っていたのに……。私は奈落の底に叩き落とされた。  こんな人だと知っていたら、告白しようなんて思わなかったのに……!! 「じゃ、やめておこうか」  気がつくと、目の前には小柄なイルカがいた。 「え……? ここは……!?」そこは水族館の水槽の前。制服姿の私以外に人影はない。 「君と彼がつきあったらどうなるか予知して、イメージで見せてあげたんだ。どうする? これでもやっぱり彼に思いを伝えるかい?」  私はしばらく呆然としていたが、我に返ると腹から怒りがこみ上げてきた。 「……ひどい!」 「そうだ。彼ほどひどい男は滅多にいないよ。君も彼の被害者にならずに済んでよかったね」イルカはニコニコと優しい笑顔をこちらに向けている。  私はたまらず叫んだ。「何言ってるの、ひどいのはあなたの方よ! タカシくんがそんなひどい人だなんて…………そんなわけないじゃない!」 「何を言うんだ。ボクは予知したから言ってるんだよ」 「あなたの予知が正しいなんて保証がどこにあるのよ! いいかげんなこと言わないで!!」 「じゃあ、君は彼の何を知っているって言うんだい。しゃべったこともないくせに」 「……そ、それは……」  次の日の朝、私は校門の前に立っていた。 「ちょっと待って! あの、実は私……」タカシくんが横を通り抜けた時、自分でも不思議なくらい簡単に言葉が口から飛び出した。  イルカの言ってた『方法』って、このことだったのかな?  そんなことがチラリと頭をよぎったが、別にどっちでも構わない。もっと大事なことを自分の目で確かめなくちゃ。  ゴールがどこにあろうと、スタート地点に吹く風は最高に心地いい。その風の感触を全身で味わいながら、私はゆっくりとタカシくんの横を歩きはじめた。

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あとがき

 恋をして悩んでいるあなた、さっさと行動に移しましょう。告白に慎重になり過ぎて時機を逃したり、つきあった後で失敗するよりも、つきあってから色々と慎重になった方がいいのでは……などというテーマの話です。
 ここでは女の子を応援するような終わり方にしましたが、実際はたいていイルカが正しいです。男友達の忠告には耳を傾けるように!(男こそ女友達の忠告を聞け……って言われそうですが)。

(1999/6/27)

「私」と女友達の台詞の語尾等を少々変更。最終行を変更。ストーリーは変わっていません。

 イルカが未来のイメージを見せるくだりは、完全に藤子・F・不二雄先生の某SF短編の影響です。

 執筆時から20年以上が経ち、僕自身「これがイルカのイメージだったらなぁ」と思う人生を生きてきたわけですが、とびきり悪いこともとびきり良かったことも両方あるから「なかったことにする」という選択も難しいわけですよね。「いいことはもうイメージ内で味わったんだから、なかったことにできるなら別の人生を」という考えのほうが理にかなっているのは分かるのですが。

 この主人公のように結局同じ道を生きてしまうとしたらその人はよく言えば「一度手にしたものを大切にする人」だし、悪く言えば「もったいない病患者」なのかもしれません。思い切って別の人生を歩めばイメージ内で手にできなかった幸せが手に入るかもしれないのだから逆に「もったいない」ことをしているのかもしれません。

(2021/2/19)

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