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恋のダンスショウ

 女にふられてヤケ酒をあおっていたおれに、飲み屋のママが話しかけてきた。 「あ~らかわいそうにねぇ。いいわ。アタシがいいもの貸してあげる」  ママが差し出したのは一本のビデオテープだった。アパートの部屋に戻ったおれは、早速ビデオデッキの再生ボタンを押した。  画面にはレオタード姿の金髪の美女が現れた。彼女が彼女の祖国の言葉で喋り出すとともに、画面にはこんな字幕が映し出された。 「ハーイ! 私が今から踊るダンスは魔法の踊りよ! 意中の人の前で間違えずに踊れば、彼女のハートはあなたのもの!!」  到底科学的とは言えない話だが、おれはすぐに実行に移した。もてないおれにとって、こんなことしかもう打つ手は残っていない。ワラにもすがる思いだったのだ。  画面の美女の踊りは、ラテン調の情熱的で激しいものだった。ダンス経験などなく、運動神経もよくないおれにとって覚えるのは困難だったが、それでも必死で練習に励んだ。体力をつけるために毎日ジョギングをした。練習の効率を上げるために、なけなしの金で全身が映る鏡も買った。  二か月後、おれはやっとのことでなんとかダンスをひと通り踊れるようになっていた。  早速実行だ。一張羅を着込んだおれは、二か月前におれをふった彼女が来るのを駅の前で待ち伏せた。  しばらくすると彼女が改札を出て来た。おれは破裂しそうになる胸を必死に手で押さえながら彼女の前に進み出た。ビデオテープによれば、相手の前に出たら何も言わず一気に踊り終えなければ効果がないらしい。チャンスは一度きり。ひとつでも振りを間違えたら、踊り直しても魔法の効果は二度と現れないのだそうだ。  おれは失敗の許されない大ステージに上がっているダンサーのような気分で最初のステップを踏んだ。チラッと彼女の姿を見る。たちまち全身の血の気が引いた。  彼女は全身黒ずくめだった。目には泣きはらした跡がある。どうやら葬式の帰りらしい。  とてもラテンダンスなど披露できる状況ではない。だが、もう踊り始めてしまったのだ。後戻りはできない。  仕方がない! おれは必死に踊り続けた。調子は悪くなかった。運良く側にあるショーウィンドウに自分の姿が映っていたこともあり、練習の時と同じような感覚で踊れたのも幸いだった。  陽気な笑顔で軽快にステップを踏むたびに、汗とともにアドレナリンがドバドバと湧き出てくる。これがダンサーズハイというやつか。  タタンタタン、タン!  あっけにとられている彼女の前で、おれはついにひとつのミスも犯すことなくなくダンスを踊り終えた。今までで一番の会心の踊りだった。  さてその効果は……。  抜群だった! 彼女の表情は一変していた。彼女は頬を赤らめ切なそうに胸を押さえていたかと思うと、「好き!!」と叫びながら駆け寄ってきた。  おれの横のショーウィンドウに向かって。  おれは振りを左右逆に覚えてしまったのだ。

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あとがき

 恋のショートショートシリーズ第2弾。光景をイメージしながら読んでください。

(1999/1/19)

『ドラゴンボール』の亀仙人がテレビでエアロビを見ているシーンから着想した話だったと思います。

(2020/6)

後日談「いつの間にやら中国デビュー」


 どうやら僕、数年前に中国の新聞でデビューしてたみたいです。

 ごていねいにオチの解説までしてあるようで、内容とはまったく関係ないステキな挿絵も付いてます。

 いわゆる海賊版でしょうか? どういうことか分かる方がいたら教えてください。
「もしかしたら中国語で書かれた掲載許諾メールが来たけれど、迷惑メールだと思って捨ててしまったのかも」とも思ったけれど、翻訳した人は日本語ができるわけだし……。

 国境を越えて読んでもらえるのは嬉しいことではありますが……。作品を転載したい方はご一報ください。

(2006/3/18)

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