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《読みかた》


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愛のランキング

「亜矢子さん! どうしてもダメですか?」 「ごめんなさい……」 「確かにあなたのような素敵な女性に、僕みたいな平凡な男は不釣り合いかもしれない。やっぱり、ハンサムな男の方がいいんでしょう?」 「いえ、わたし……、つき合うならわたしのことを世界一愛してくれる人がいいんです」 「だったら、僕はあなたを愛する気持ちだけは絶対に誰にも負けない!! 本当です。信じて下さい。……それでもダメですか?」 「……。……ごめんなさい……」  亜矢子が立ち去った後の歩道橋の上。夜露に濡れはじめた手すりに顔をうずめたまま、忠夫は口から漏れる呟きを抑えることができなかった。 「チクショー、チクショーゥ……。なんで分かってもらえないんだ! 彼女のことを思う気持ちでは絶対におれが世界一だって自信があるのに……」 「じゃ、調べてみますか?」  突然、忠夫の肩を叩いたのは深緑色のスーツを着込んだ若い男だった。 「あんたは……!?」 「こう見えても私は天使なんです。ええ、神の使いです。このノートには地上のデータがすべて集計されているんですよ」  そう言うと、男はカバンから一冊のノートを取り出した。唖然としている忠夫をよそに、男は話し続けた。 「……ええと、島谷亜矢子さんを愛している人のランキングを見ればいいわけですね。……あ、ありました。北村忠夫さん、あなたは…… 523位ですね」 「 523位!? そんなバカな! デタラメを言うな!!」 「天使は嘘はつきませんよ。更に言えばですね。今の順位は現在亜矢子さんを愛している人だけのランキングです。『これから出会う予定の人』も含めれば、あなたの順位は5014位。全世界の人を対象に『もし出会ったらどれだけ愛せるか』を調べたランキングでは、あなたは23億5736万2538位です」 「そ、そんなぁ……」忠夫はへなへなとその場に倒れこんだ。これで自分が亜矢子と付き合える可能性は完全に絶たれてしまったのだ。「亜矢子さんをそんなに愛している1位のヤツがうらやましい……。そいつになりたい……。そうだ! あんた、天使ならおれの願いをきいてくれよ。1位のヤツとおれの心を入れ替わらせてくれないか?」 「お安い御用ですが……いいんですか? 一度入れ替えたら元には戻れませんよ?」 「ああ。彼女を世界一愛しているというそいつになれれば満足だ。他には何もいらない」 「そうですか。では……エイヤッ」天使のかけ声と共に、北村忠夫の意識はその場所から消え失せた。    *   *  それから半年後。とある教会では結婚式がおごそかに行われていた。  純白の花嫁衣裳に身を包んでいるのは島谷亜矢子。そして、白いタキシード姿で神父の前に立っている男は……北村忠夫だった。  深緑色のスーツで参列していた天使は呟いた。「意識を交換すれば、当然、世界一島谷亜矢子を愛せる人物の心が北村忠夫の体に入る。だから、こうなることは予測できた。だが、事態はもう少し複雑だったようだ……」  さて読者諸氏にここで問題。今一番幸せなのは誰でしょう?  A:半年前まで北村忠夫だった人物  B:新しく北村忠夫になった人物  C:島谷亜矢子 (答えはこの後の矢印の先に!) ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 【『愛のランキング』・解答編】  式は滞りなく進み、誓いのキスを交わす段となった。  新郎の唇を待つためにしっかりと目を閉じたまま、花嫁は思った。「こうなれて確かに嬉しい気持ちはある。でも本当にこれでよかったの……?」  一方、新郎は花嫁とのキスを目前に興奮状態にあった。「ああ! 絶対にこんなことは実現不可能だと思って生きて来たのに……。本当にもう、幸せで幸せで死にそう!! こんなに綺麗な わたし にキスできるなんて、本当に幸せな、わ・た・し!」  亜矢子は極度のナルシスト。つまり島谷亜矢子を世界一愛している人物とは島谷亜矢子自身だったのである。よって正解はB。

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あとがき

「世界一愛してるのになんで分かってくれないんだ!」
 口で言うだけなら誰でもできます。行動で分からせましょう。

 愛している人の体を手に入れ、愛している人の心が宿った肉体と結婚できた忠夫ですが……きっと不幸なんでしょうねぇ。それとも「そばにいられるだけで幸せ」なんでしょうか?

(2002/6/13)

 『ドラえもん』の「正かくグラフ」という道具が昔から好きでして。よく「愛に絶対はない」といいますが、ある一瞬に、あるルールのもとで機械的に測定することさえできれば、全人類をランキングすることも可能なはずです(脳波や脳のスキャンの他、相性分析なども必要かもしれません)。

 もっともそれはあくまでも「ある一瞬」のランキングで、未来は測れないわけですが。僕らは「未来がどうなるか分からない=未来に希望がある」からこそ生きていけるのだろうなぁと、最近つくづく思います。

(2021/2/24)

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