「令和」という元号

「令和」という元号

新元号「令和」

2019年4月1日。新元号の「令和」が発表された。

出典は日本最古の歌集「万葉集」。「人々が美しく心寄せ合う中で文化は花開く」という意味が込められているとのこと

「令」は「良い」「美しい」などの意、「和」は「やわらぎ」「なごやか」「おだやか」などの意か。

「令和」の令は命令の令?

私自身、「令和」の発表後に受けた第一印象は「冷たさ」だった。
それは「令」が命令という熟語でよく使われるからかもしれないし 「冷」のつくりだからかもしれないし 「霊話」という単語が思い浮かんだからかもしれない。

しかし、前述の通り「令」という漢字には「良い」「美しい」などのいい意味があるそうだ。息子や娘を「令息」「令嬢」などと表すのもそのような意味からだろう。もともとは「神のお告げ」を表すとのことで、だからこそプラスの意味で使われ、「司令」「令状」などの上から与えられる言葉に使われるようになったのかもしれない。

安倍総理が「上からの命令に従わせよう」という裏の意味を込めたのかどうかは私には知る由もない。
確かなのは、政治的な意図で「命令を強制する偏った元号」とだけ断罪する人こそ偏っているし、逆に「命令っぽくて生理的に気持ちよくない」と個人的に感じる人を「無知なせい」という一言で卑下する人も偏っているということだろう。感じ方は人それぞれだからだ。

考案者が「命令に従わせる元号にしたい」と発案し、安倍総理も同意して決定したのであれば嫌悪感を抱くのが当然だろうが、そんな可能性はほぼないだろうから、私自身は美しい元号として触れていきたいと思う。

国書が出典なのは国家主義の表れ?

令和の出典は「万葉集」。はじめて日本の書物が出典になったので「国家主義の表れだ」と安倍総理を批判する人がいる。

私も安倍総理には早く退陣してもらったほうがいいと思うが、日本の書物を出典にすること自体には賛成だ。

そもそも、「日本の書物から選ぼう!」ということになったのは今回がはじめてではなく、過去にも案として上ったことがあることが記録に残っている。

中国の書物から選んでいたのは、優れた書物を中国から取り入れていた古代の慣習の名残であり、国内の文字文化が成熟してからだいぶ時が過ぎた今となっては「国内の書物から選ぼう」という流れになるのは当然の流れだといえる。

ちなみに、「古代の日本は中国よりもかなり劣っていた」と認識されがちだが、それは日本での文字の使用開始時期が遅いためで、文字のない時代から日本ではかなり高度な文化が築かれていたそうだ。歌や伝承で文化を伝えることで、ゆるやかに発展していたのではないだろうか。

また、新元号「令和」を、ごく一部の欧米メディアが「日本の右傾化」と認識したならば、それは「Order and Harmony」という誤訳のせいでは。政府発表の通りに訳すならシンプルに「Beautiful harmony」「Good Harmony」「Happy Harmony」等でいいのではと思う(安倍政権による右傾化は実際にあるので早期退陣を望むが)。

「令和」に決まるまで

安倍総理が数ある案の中の「令和」を目にしたのは3月に入ってからとのこと。

3/25〜29 に決定(3/25には6案に絞り込まれていた)したとのこと。

4/1に「元号に関する懇談会(有識者懇談会)」で6案が発表。その後ほどなく「令和」に決定。

6案に対する反応

  • 「読みやすい」「親しみやすい」「分かりやすい」の声。
  • いずれも頭文字はMTSH以外。
  • 有識者懇談会の全員、閣僚のほとんどが日本の古典が典拠の元号にするように求めた。
  • 有識者懇談会の出席者は「令和が一番人気だった」「政府による誘導はなかった」と証言。
  • 有識者懇談会に出席した9人中、「令和」を推したのは7人。その他の案を推したのは2人。

「令和」以外の案

6つの案の典拠は国書(万葉集、日本書紀、古事記)から3案、漢籍から3案とのこと。下記は選ばれなかった5案。

  • 英弘(えいこう、Eikou):「古事記」より。
  • 久化(きゅうか、Kyuuka):中国の古典より。
  • 広至(こうし、Koushi):「日本書紀」と、中国最古の詩集「詩経」より(出典は2つ)。
  • 万和(ばんな、Banna):中国の「文選」より。出典は2つ。案の提出者は石川忠久・元二松学舎大学長。
  • 万保(ばんぽう、Banpou):中国の古典より。

石川氏が提出したその他の候補

  • 和貴
  • 光風

「令和」に決定したのは4月1日?

3月の時点で最終案に「令和」は入っておらず前述の5案のみだった。国書由来の案が手薄と感じた安倍総理は、国書由来の案を追加で募集。安倍総理自らその中から「令和」を選び最終案に追加した。
……との報道を聞いた。

そのような経緯ならば、3月の時点で政権内では「令和」に内定しており、他の5案は当て馬で、4月1日にポーズの有識者懇談会等を開いた後で決定したと考えるのが自然だろう(その後、一時は「英弘」が有力案だったが3/27に「令和」を本命候補とする方針を政権内で決めていたことが4/10に報道された)。

平成のときは3つだった最終案が6つ提示されたことで「誘導はない」とアピールしているが、そもそもほとんどの人が「今回は国書由来がいい」と思っていたのだから実質的な最終候補は3案だったことになる。他の「英弘(えいこう)」と「広至(こうし)」は「一般単語と音が同じで紛らわしい」とケチが付いた結果選ばれなかったとのこと。そのケチをつける一言を政権側がポロッと言ったのならば、平成を決める際に「『修文』と『正化』は頭文字がSで昭和と紛らわしいね」とポロッと言うことで内定していた平成に誘導したときと同じ手法が使われたことになる。

それでいいのだと思う。大切な元号を、わずか数時間で決めるほうがおかしいのだから。

もちろん、安倍総理が個人のわがままで決めたような元号であれば困るが、学者らの意見を聞きながら案を選定しつつ時の政権を牛耳る安倍総理が最終決定をしたということならば自然な選定経過だといえる。

「令和」には字(あざな)で使用された歴史がある

中国人のひとりから「零と発音が同じなので平和がゼロという意味になる。諧音(シエイン。同音異義語のこと)は避けるのが常識」との批判があった。
しかし、この意見は中国国内の総意ではない。おそらくごく一部の意見ではないだろうか。他国の万人の常識に合わせることは不可能なので、日本の元号は日本の常識で決めればいい。

また、「令和」は中国でも古くから著名人の字(あざな)として使用されてきた歴史があるとのこと。
このことを知っている知識人であれば、的外れな批判は行わない。少なくとも「日本人は漢字の選び方が下手」という意見は的外れということになる。

名前が「令和」な人々

日本では「平成(へなり)」のような地名は確認されていないが、「令和」という名前の人はいる。新元号発表時すぐは「令和」で検索すると令和氏の著書が表示されたが、ほどなく新元号の令和が結果の上位を占めるようになった。

テレビ番組では名前が「令和」の人がインタビューに答える姿が放送された。名前の読みは「れいわ」「のりかず」等。万葉集の同じ箇所から引用して名付けた人もいた。

ちなみに芸人のカズレーザーの本名は「和令(かずのり)」とのこと。「かずれい」→「カズレーザー」という由来だったのか。

新元号「令和」メモ

  • 考案者は万葉学者の中西進氏(大阪女子大名誉教授)。
  • 発表時に額で掲げられた「令和」の文字を書いたのは茂住修身(もずみ・おさみ)氏。
  • 「はじめて使われる字」と「よく使われる字」を組み合わせた手法。和は20回目。昭和と平成も同様の手法。キラキラ元号になりにくく新鮮さを出せる。
  • 国書を典拠とした初の元号。ただし歴代元号の中には典拠が不明なものもあるとのこと。その中に国書を典拠とした可能性があるものがあるのかは未調査。
  • 頭文字がRになるのは暦応以来700年ぶり。

雑感

  • 発表日は前日の昼に起きてから寝るタイミングを失ってしまい、少々のうたた寝のみで元号発表を聞き、これを書いている。
  • 新元号は令和。なんだか昭和っぽいぞ!
  • 生前退位ということで平成から「成」の字が受け継がれるのではという話はあったが、昭和の「和」が使われるとは。典拠は万葉集とのことで、日本の書物が典拠になったのは史上初。平和の意味はもちろん、日本らしい和の意味を込めたい意図もあったのだろうか。
  • 急いでグッズを作ろうとしている業者の中には「REIWA」か「LEIWA」かで迷っている人もいそう。→その後「REIWA」と正式発表。
  • 令和の「令」は万葉集の「令月」からとったそうで、令月は陰暦2月とのこと。皇太子殿下の誕生日が2月なことも考慮されているのだろうか。陰暦なので関係ないのだろうか。
  • 平成が発表された当初は違和感しかなかったが「令和」には新しさよりも懐かしさを感じる。ともかく和やかな未来になってくれることを祈るばかり。
  • 尊敬する手塚治虫先生が知らない元号の時代がとうとうやって来てしまう。手塚先生がもっともっと長生きされていたら、令和時代にどのような作品を描かれていたのか。令和時代を舞台とした『火の鳥』はどのような作品になったのかが気になる。
  • 落選した案の中では「万和(ばんな)」がお気に入り。温度が低い印象の「令和」とは対極で温かな印象がある。オーブンで分厚いパンケーキがホカホカと焼けているイメージ。

更新履歴

  • 2019.4.1:公開。
  • 2019.4.2:大幅に加筆・改稿。
  • 2019.4.3:最終案5案の読みを報道に基づいて修正。「『令和』に決定したのは4月1日?」の項を追加。
  • 2019.4.11:4/10の報道内容を追加。
  • 2019.12.13:1コラムとしてページを独立。
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